パンづくりの心を育てると人も元気になる
日時: 2008年10月17日 14:43 | コメント (0) | トラックバック (0)
“なんとバカな!”
この夏、広島県北西部の山間地に、ある農場を訪ねたときのことです。いきなり木の上のツリーハウスに案内されて驚きました。中は8人ほどが座れる本格的なもの。『トム・ソーヤーの冒険』を読んで、「子供の頃の夢を実現したかった…」と語るのは、パンのアンデルセン・グループの高木誠一・代表取締役社長です。
1948年、原爆を投下されて焼け野原だった広島市でベーカリーを始め、今年で創業60周年を迎えたアンデルセン・グループ。「私たちの60年は“なんとバカな!”の連続でした。“なんとバカな!”ほかから見ればそう思われることでも、私たちはいつも真正面から取り組んでまいりました」と高木社長は振り返ります。
転機はデニッシュとの出会い
父親で創業者の高木俊介社主が、全くの素人からベーカリーを立ち上げて10年が経過した1959年、新しい機械を購入することよりも、学ぶことを優先して初の欧米視察に出かけます。旅先のデンマークで、デニッシュペストリーと劇的な出会いを体験し、独自のベーカリーの道を切り開き始めます。こうして1962年に日本で初めてデニッシュペストリーを発売、1967年には「アンデルセン」第一号店を広島にオープンしました。後に社名にもなる店名は、デンマークの童話作家アンデルセンが作品を通して子供たちに夢と幸せを与えているように、「私たちもパンのある食卓を通して、お客様に幸せをお届けしたい」という思いを込めてつけたものでした。
その後も“なんとバカな!”「日本で初めて」が続きます。日本で初めての冷凍パン工場を作りました。日本で初めて、生地成形後の状態で冷凍したパンを使用するベイクオフシステムによるベーカリーチェーンを始めました。トングを使ってトレイに取るセルフサービスのスタイルを取り入れたのも日本で初めてでした。
全ての仕事は素人より始まる
こうした斬新なアイデアが実現したのは、「素人の発想を大切に、常に未知なるものにチャレンジし続けよう」という行動指針を掲げ、創業者が制定した企業理念が今も息づいているからです。企業理念の一節には、「全ての仕事は素人より始まる」とあります。同業他社がしていないこと、できなかったことを開拓して作り上げ、導入する。こうして従来なかった新しい市場を作り上げてきました。
企業活動の原点は「良心」です、に始まる企業理念は、社員によく浸透しています。「空で言えます」とフランチャイズ店のスーパーバイザーは言います。週1回の営業会議では、冒頭で2ページに渡る長い企業理念を全員で読み上げているそうです。グループ社員で店舗販売の新入社員は、「制服を着ているときはアンデルセンブランドを背負っています」と元気な声で答えてくれました。勉強熱心な新入社員のこと、「お昼はアンデルセンのパンを買って食べています」
会う社員が皆、前向きな社員ばかりと言う印象です。理念に共感して入社した人ばかりなので常に共感を維持しているのでしょう。「そしてその基本にあるのは、ABC運動…当たり前のことをびっくりするほどちゃんとやる…にあると思っています」と高木社長。
人材育成は農場から
そんなアンデルセンの将来を担う人材の育成がまたユニーク。ツリーハウスのある農場は、新入社員の中から希望者を対象に毎年5名を選び、「高木俊介製パン学校」の研修生として2年間に渡って寝食を共にして、パンづくりの心と創業の理念を学ぶ場となっています。2004年に誕生したこの「アンデルセン芸北100年農場」は、農場と言ってもまだまだ荒れ野と林ばかり、187ヘクタールの広大な原野。研修は、まず土地を開墾することから始まります。各期の研修生は、潅木を伐採し、雑草をむしり、石ころを取り除くことで畑に変えていきます。耕した土に種をまき、麦を丹念に育てる。収穫した小麦を粉に挽き、生地をこねてパンを石窯で焼き上げる。美味しいパンをつくるために基本から学ぶことはもちろん、さらにでき上がったパンを地元の祭りに店を出して消費者に提供するなど、経営の基礎も学ぶ。卒業プレゼンテーションでは、自分たちのパンをお客様にもてなして一緒に食べ、喜びを分かち合う。訪れたデンマーク大使が農場のダイニングテーブルに書き残した通り、「土づくりから食卓づくりまで」、まさにパンづくりの全てがそこにあります。
7月5日、4期生が開墾した小麦畑“Force Field”で麦刈りが行われました。「愛情を注げば注ぐほど、土も小麦も応えてくれる。手間をかければかけるだけ戻ってくる、その楽しさに感動しています」。パンを大切にする心を体得した研修生たちは皆いい顔をしています。訪れたゲストに「パンは食べましたか?」とキラキラした目で語りかけてきます。そんな研修生を親のような愛情で育てる50代の西本隆幸・農場長と、熊野明彦シニアアドバイザー。「研修生たちには、人間としての基礎をここで磨いてもらいたいと考えてます」と熊野さん。
「アンデルセン芸北100年農場」、その見晴台からは農場一体を見渡せます。これからも毎年、研修生がその一角を切り開いて畑にしていき、ストーリーが生まれます。ひとつ、またひとつ。同じ体験に基づいて自由に話し、夢を共有した研修生たちは、卒業後にここを巣立って全国の各部署に散っていきますが、家族以上の絆を持つ彼らは、将来のリーダーになることは間違いありません。100年後にはどんな農場になり、どんな会社になっているのでしょうか。
100年先を見据えて
「世界一のアップルパイをつくりたい」、高木社長の夢は膨らみます。「アンデルセン芸北100年農場」から少し離れた場所に、「アンデルセンファーム」という別の農場を開き、りんごとワイン用のぶどうを栽培しています。ここでも土つくりからの試行錯誤です。100年先を見据えて夢を語る社長と、パンづくりの心を農場で学ぶ新入社員研修生たち。元気な会社には、今も息づく企業理念がありました。アンデルセンが目標として掲げるのは、「世界一のクオリティーベーカリーをめざして」。そこには品質第一、売上第二とあります。
