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自治体の若者の元気で町が変わる
日時: 2008年12月10日 19:02 | コメント (0) | トラックバック (0)
それは一通のメールから始まった
「ブドウ作りの相談にのってください」――それは3年前の一通のメールから始まりました。本特集の5月号で紹介した宮崎県の都農ワインに、山梨県の山中湖村産業振興課の職員、吉田健司さん(32)から問い合わせがありました。町おこしのために特産品ワインを造ろうと、醸造用ブドウの栽培をもう5年以上続けているが、いいブドウができなくて困っているというものでした。
山中湖村は人口約5940人、富士山に程近い標高1000mの避暑地として夏の間は観光客が多く訪れるものの、以前のような賑わいはなく、観光業は頭打ち傾向。一方、村の農林業は、土地生産性が低く、担い手が減って遊休農地が増え続けていました。対策として、村は農業と観光を結びつけて付加価値をつけるために「花の都公園」を作り、村が100%出資する山中湖観光振興公社が運営しています。しかし事業は採算が取れず、公園内でブドウの試験栽培を手掛けたものの見通しが立たない状況でした。
吉田さんは、わらにもすがる思いで全国の5カ所の醸造所にメールを出しましたが、返事を返してくれたのは、都農ワインだけだったそうです。世界的な賞を受賞している都農ワインの赤尾誠二工場長代理からの返事には「我々が実施している土作り、施肥・栽培管理を行えば、すぐにでも我々のブドウの持つポテンシャルは超えることができるでしょう。ただし、そこにはただならぬ情熱が不可欠となります」とありました。周囲の無理解や非難にもめげず、数々の失敗や逆境にも負けない覚悟が問われたのです。
土ごと発酵、人ごと発酵
吉田さんは「動かなければ何も始まらない」と奮起します。都農ワインの土作りを指導した三輪晋さんから直接学んだ方法で2006年から土作りに着手します。吉田さんは土の反応を見て、「三輪さん、土に菌糸が出てきました!」と興奮した声で叫んでいました。「土ごと発酵」と呼ぶ土作りで1年目から確かな手ごたえを感じていました。
一緒に取り組んだのが観光振興公社「花の都公園」園芸部でブドウ作りを担当する茶髪姿の若者、鈴木勝久さん(31)でした。その頃は農業の素人だったという鈴木さんは、目標を見失い、人生のどん底をさまよっていました。「ふか~い淵の底でしたね、本当に。深いじゃ言い表せないくらいでしたね」と鈴木さんは振り返ります。でも三輪さんと会って考え方が変わりました。仕事に光を見い出し、「吉田さんの働いている姿、カッコいいですよ。自分も吉田さんのように働きたい!」と言えるようになるまで人間的にも成長していきます。
2人は翌年の2007年、一部のブドウ畑に三輪さんに教わった農法を導入します。従来のブドウ畑と比べると、その差は歴然。2人はブドウ作りにどんどん、のめり込んでいきました。
「ブドウ畑に霜注意報が出ると、眠れないですね」と鈴木さんは言います。「夜中でも僕と吉田君たちで畑に行って、ずっと火を燃やしていました。一番放射冷却が厳しい朝3時4時にやるんです。警官に職務質問されたりもしました」
こうして2人の若者が活き活きとブドウ作りに取り組む姿は、周囲を動かします。吉田さんの上司、産業振興課係長の山﨑茂さん(50)は、三輪さんの農業指導を受けている若者たちを視察に行き、「初めて30代の若者が土を見ながら延々と議論して熱くなっているのを見て感動した。だから俺も負けたくないって気持ちになったんだよ」と言います。農業を通じた人づくり、「人ごと発酵」で信頼できる仲間のネットワークが広がっていきました。
進歩は常識の外にある
2年目の成果を受けて、3年目の今年は、さらにこの農法をブドウ畑全体に拡大しました。その結果、去年と比べてブドウの収穫量は2.5倍に、糖度は3度も上昇して20度にまでアップしていました。通常、糖度を上げるためには間引きをして、あえて収穫量を減らすのが常識でした。名だたる醸造所が頑張ってもできなかったことを若い2人が中心になってやり遂げてしまったのです。
「土の持つ力を実感しました」と鈴木さんは目を輝かせます。現在は特産ワインを委託醸造していますが、鈴木さんの目は、早くも今年獲れたブドウを使ったワインのできばえに向いています。「日本一のブドウを作って、おいしいワインをみんなに飲んでもらいたいです」
農家が夢を持てるようにしたい
一方、山﨑さんと吉田さんは、ブドウの収穫後、この土を使って新たに野菜づくりに挑戦を始めました。スタートが遅かったせいで、ホウレン草の苗は霜にやられ、一度失敗しましたが、来年には高原野菜として白菜かキャベツを作ろうと意欲満々です。「農家が夢を持てるようにしたい」と言う山﨑さんは、吉田さんに向かってハッパをかけます。「なぁ、ヨシケン、絶対に成功してやる。俺らが成功することによって、村が信用されるようになるだろ。理想を現実にするきっかけを作りたいんだ。ブドウにしても白菜にしても、きっかけを作るために一生懸命努力しているんだ」
小さな自治体の若い職員の一途な元気は、周りを巻き込んで元気を振り撒き、農業を通じた村の再生、町おこしに向けて、今確かに歩み始めています。
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