「よいこと」をしてアトム通貨をもらおう
日時: 2009年08月27日 13:08 | コメント (0) | トラックバック (0)
ありがとうの輪をつなげる”Thanks Money”
誰もが知っている人気キャラクターの鉄腕アトム。アトムは2003年4月7日、高田馬場科学省で誕生した――これが手塚治虫さんの漫画『鉄腕アトム』による設定です。高田馬場駅前のガード下には、アトムらを描いた壁画が飾られていますが、地元商店街の人たちがきれいに清掃し続けていることから、今でも落書き一つありません。
このアトム誕生から1年後の2004年、高田馬場・早稲田商店街を活性化する地域通貨として、地元の人たちの手によって生まれたのが“アトム通貨”です。通貨単位はアトムにちなんで「馬力」。10馬力、50馬力、100馬力の3種類の通貨があります。レストランからコンビニまで約170の加盟店で1馬力=1円として使えます。しかし、アトムとウランちゃんをあしらったデザインのアトム通貨は販売しておらず、「よいこと」をしないともらえません。
例えばマイバッグを持参すると10馬力、打ち水イベントに参加すると50馬力という具合です。誰かに何かをしてあげたいという思いを応援し、何かをしてくれた人に「ありがとうの気持ち」を伝えるツールとして配られる”Thanks Money”なのです。
手塚治虫さんは作品を通じて、人と人とのつながりの大切さ、子どもたちの未来や地球の未来を危惧する思いを込めてきました。この手塚治虫さんの願いを行動理念に、「地域社会」、「国際協力」、「地球環境」の分野で貢献するプロジェクトだとアトム通貨実行委員会が承認したものだけにアトム通貨は発行されています。
アトム通貨は勲章
「子どもたちにとって、アトム通貨は勲章のようなイメージがあります」と実行委員会の広報を担当する、手塚プロダクションの日高海さんは言います。子どもたちは、3種類の通貨を集めようと、マイバッグを持って買い物に行き、喜んでボランティアとしてイベントに参加します。通貨の利用有効期限が毎年決まっているので、期限が来ると集めた通貨の枚数だけ、「よいこと」をした証になるのです。「子どもに限らず、毎年新デザインの通貨が出るのを楽しみにしているコレクターの方がいっぱいいらっしゃいます」と日高さん。
アトム通貨が誕生したきっかけは、ちょうどアトム誕生イベントの2003年頃。地元商店街が中心となって、町を挙げて仮装パレードをするなど大変盛り上がりました。手塚プロダクションの人たちは、お礼も兼ねて何か地元商店街の人たちと一緒にできないかと思っていました。ちょうどその頃、早稲田大学ボランティアセンター(WAVOC)は地域活性化のために地域通貨をやりませんかと商店街に話を持ちかけていたところでした。それではいっしょにやりましょう、ということになり、準備を進めてアトムが1歳になる2004年4月7日にアトム通貨はスタートしたのです。
アトム通貨は、イベント主催者やプロジェクト主催者の加盟店が、配布額相当分を実行委員会に預金するのと引き換えに発行されます。通貨が加盟店で使用されると、加盟店が実行委員会に通貨を持ち込んで現金に換金する仕組みです。今年で6年目ですが、配布総額は、約50万円から88万円の間です。換金率は50%前後で、多くの人が通貨を集めるだけで使用していないことがうかがえます。
「経済振興ではなく、あくまで地域のいろんな人たちが、ありがとうと言いながら関わってもらうための通貨として使ってもらっているのが現状です」と日高さんは言います。「見ていて楽しいですね。周りがどんどんやる気が出てくる、商店が活気づいてくる、周りの方々が喜んでくださるというのが本当に目で見てわかるんです。それはすごく幸せな体験だと思います」
周りがどんどんやる気が出てくる
早稲田通り沿いの中華レストラン、「一番飯店」は熱心な加盟店のひとつです。“マイ箸”を持参すれば10馬力を配っていますが、なかなか持ってくる人がいません。そこで、学生さんが見せてくれた記事をヒントに、お酒のボトルキープのように“マイ箸キープ”のサービスを始めました。さらに自分で持ち込むだけでなく、200円でその場でマイ箸を作れるように店で用意したところ、これが大ヒット。最初は仲のいい常連さんから、面白がってどんどん広がっていきました。今年で3年目、今では約130膳を預かっています。女性のほうが多いそうです。毎日15人ぐらい、毎月200‐300人がキープしたマイ箸を使っています。
「お客さんのお名前が分かる。お客さんとの距離が近くなるんです。これが一番大きい。お箸を作った人が自分のお箸を見せるために、友だちを連れてくるんですよ。すると、じゃあ私も作ろうかな、ということになる。思った以上の効果がありましたね」と店長の山本義家さんは大喜びです。
とはいえ、マイ箸をキープするのは大きな手間。使用後のマイ箸は、汚れたままケースに入れてもらいます。他の人の箸と混じらないよう1膳ずつケースから出して洗い、乾燥させた上にアルコール消毒をして、キープします。こうした手間も、アトム通貨にかかる費用も、大したことではないと山本店長は言います。
マイ箸キープで10馬力、ハイボール飲んでも10馬力
また、マイ箸だけでなく、小松菜を使った「地産地消メニュー」をオーダーした人にも10馬力を配布。さらにはサントリーとも協力してハイボール1杯につき10円を店側から森林基金に寄付することにして、オーダーした人にも10馬力をあげています。店側の持ち出しはハイボール1杯で20円になりますが、お客さんが「ハイボールを飲むとエコなんですって!」といって盛り上がってくれるのが嬉しいと山本店長は言います。
山本店長がここまで熱心にアトム通貨を応援しているのには訳があります。もう20年以上も前に生前の手塚治虫さんが近くで事務所を開いていた頃のこと。「随分、可愛がってもらって、いっぱいお仕事をもらいました」と山本さん。「手塚先生は、一々大変でしょうから全部伝票で処理しますので、ウチの者を伝票で食べさせてやってくださいとおっしゃいました。これが事務所全員ですから大きな金額になるんです。非常にありがたかった」
また、手塚治虫さんから魚介類のこれとこれを入れて作ってよ、と言われて山本さんが作ったのが“特製上海やきそば”。今でも定番メニューとしてそのまま残してあります。
「やさしい人だった。一番腰が低かったのが先生。30年前、ぺいぺいの私が集金に行くと、『ご苦労様、いつもありがとうね』といつも声をかけてくれたのが先生でした。さんざんお世話になった手塚先生だから、恩返しのつもりで一生懸命やろう、アトム通貨をどんどん配って、どんどん使ってもらおうと思ってます」と山本店長は言います。
「エコ・アクション・ポイント」モデル事業
アトム通貨は、地球温暖化防止国民運動の切り札として評価され、環境省の「エコ・アクション・ポイント」モデル事業に平成20年度、21年度続けて採択されています。これがきっかけで、全国から「うちの地域でもできないか」と相談を受けるようになりました。実行委員会は、アトム通貨事業説明会を開き、9都道県から13団体が参加しました。その後、打ち合わせを重ねて準備を進め、今年4月から川口市が支部としてスタート、さらに8月30日からは札幌市西区の発寒(はっさむ)北商店街が札幌支部として流通を開始します。9月以降も、徳島や熊本などにアトム通貨は拡大、まさに全国展開する予定です。
今後は、内容に関しても充実させていくことを計画中です。かつて神田川で友禅染が盛んだったことから、染物の生地で風呂敷や箸入れなどのオリジナル商品を開発し、アトムブランドで販売することを検討中です。また、国や自治体の補助を利用して、いわゆるシャッター商店街の空き店舗をサロンに改装して遠くから訪れる人にも開放し、地域のお年寄りや子どもたちが触れあうコミュニティーの場として利用することを考えています。
また、地元に限らず、企業との連携も模索しています。これまで、ヤクルト・スワローズ(元アトムズ)の試合で神宮球場にマイカップを持参した人にアトム通貨を配りました。また、読売新聞のエコキャンペーンや文化放送の番組でも、アトム通貨を配布中です。今後はさらにアトム通貨普及の起爆剤として、企業のCSR活動の一環でイベントやキャンペーンにアトム通貨を利用してもらい、配布してもらうことも進めていく考えです。
「アトム通貨は、どんどん広がっていって常に同じ形をしていないので、まるで生き物のようです。発想力でいろんな形になるんです」。これからが楽しみと日高さんは笑顔で語ってくれました。
関連リンク:
アトム通貨 公式サイト
http://www.atom-community.jp/
